会話では、話し手が声を出し、聞き手がその声を聞いています。しかし、伝えたい内容が相手に伝わるまでには、音のやりとりだけでなく、いくつもの働きが関わっています。

まずは「伝えたいことが、ことばと音になり、相手の理解につながる」という全体のつながりを見てみましょう。

伝えたいことを、ことばと音にする

例えば、相手に書類をトレーへ置いてほしいとします。

話し手は、その内容を伝えるためにことばを選び、「そこに置いてください」という文にします。そして、息を使い、声帯や舌、唇などを動かして、音声(用語一覧の説明へ)音声(おんせい)人が発声器官を使って作る、話しことばの音。この部の用語一覧で見るとして表します。

声帯(用語一覧の説明へ)声帯(せいたい)のどの中にある組織。息の流れによって周期的に振動し、声のもとを作る。この部の用語一覧で見る(せいたい)は、のどにある、声を出すときに振動する部分です。声帯の振動や、舌・唇などの動きが組み合わさって、さまざまな音が作られます。詳しい仕組みは第5部で見ていきます。

届いた音を、ことばや意味と結びつける

聞き手には、話し手が作った音が届きます。

私たちは、その音の特徴や変化を手がかりに、「そこに」「置いて」「ください」といったことばを捉え、文としての意味を理解します。

ここには、大きく分けて次の働きが関わります。

聞き手の側で関わる働き
働き会話でしていること
聴覚の働き音の存在や、音の強さ・周波数・時間的な変化などを捉える
ことばを理解する働き音の並びを知っていることばと結びつけ、文の組み立てや意味を捉える
注意や記憶の働き相手の話に注意を向け、聞いた内容を一時的に保ちながら、前後をつなげる

周波数(用語一覧の説明へ)周波数(しゅうはすう)振動が1秒間に繰り返される回数。単位はHz。この部の用語一覧で見る(しゅうはすう)とは、音の振動が1秒間に何回繰り返されるかを表すものです。音声にはさまざまな周波数の成分が含まれており、その違いも聞き分けの手がかりになります。

これらは、説明のために分けた働きです。実際の会話では、一つが終わってから次が始まるだけでなく、互いに関わり合いながら理解が進みます。

話す人・届く情報・聞く人を並べた模式図。話す人は伝えたいことをことばにし、呼吸・声帯・口を使って声にする。声の音と、口の動き・表情が聞く人に届き、聞く人は音からことばを捉え、見える情報も合わせて意味や意図を理解する。聞く人から話す人へ「聞き返す・確認する、伝え直す」というやりとりの矢印があり、共有している話題・状況・知識が両者を支える。声が聞こえても、意味まで伝わったとは限らない。

拡大して見る(図:ことばが伝わる全体像の画像を開きます)

図:ことばが伝わる全体像

この図では、話し手が内容を音声にするところと、聞き手が音声から内容を理解するところを見てください。さらに、聞き手から話し手へ戻る「聞き返す・確認する」というやりとりにも注目してみましょう。

文脈や見える情報で、意味を補う

会話では、お互いに分かっていることを省略したり、「これ」「そこ」といった表現を使ったりします。

例えば、「そこに置いてください」という文では、「何を置くか」は言われておらず、「そこ」がどの場所なのかも、ことばだけでは決まりません。

直前まで提出する書類の話をしていたなら、置くものはその書類だと考えられます。相手が机の上のトレーを指していれば、「そこ」がどの場所なのかを捉えやすくなります。

このような、前後の話のつながりや、その場の状況を、ここでは文脈(用語一覧の説明へ)文脈(ぶんみゃく)前後のことばや話題、状況など、意味を考える手がかり。この部の用語一覧で見る(ぶんみゃく)と呼びます。この例は、聞き取ったことばを文脈や身ぶりと結びつけて、具体的な意味を理解する場面です。

「そこに置いてください」という発話を理解する3つの手がかり。音の手がかりで「そこに」「置いて」「ください」ということばを捉える。文脈の手がかりとして、直前まで提出する書類の話をしていたので、置くものはその書類だと考えられる。視覚の手がかりとして、相手が机の上のトレーを指しているので、「そこ」がどの場所かをつかみやすい。分からないところは推測だけで決めずに「この書類を、こっちのトレーに置くんですね?」と確認し、相手の返事まで確かめる。3つは順番に使う段階ではなく、組み合わせて使う手がかり。

拡大して見る(図:文脈と見える手がかりの画像を開きます)

図:文脈と見える手がかり

一方、最初から「この書類を、机の上の青いトレーに置いてください」と伝えれば、何をどこへ置くのかが、ことばでも明確になります。省略された内容を補うだけでなく、話し手が具体的に伝えることも、理解を支える方法です。

見える情報には、指さしのほかに、口の動きや表情などもあります。口の動きは話された音を捉える助けになり、表情や身ぶりは内容や意図を理解する助けにもなります。

口や顔の動きなど、見える情報を手がかりに話を理解することを、読話(用語一覧の説明へ)読話(どくわ)話し手の口や顔の動きなど、見える情報を手がかりに発話を理解すること。この部の用語一覧で見る(どくわ)といいます。ただし、口の形だけですべての音を区別できるわけではありません。

図の3つの手がかりは、順番に使う段階ではありません。会話の状況に応じて、利用できる情報を組み合わせながら理解していきます。

曖昧なところがあれば、確かめる

内容が明確に伝わっていれば、すべての発言を確認し直す必要はありません。

一方、聞き取れなかったところや、何を指しているのか曖昧なところがあるときは、その部分を具体的に確かめると、行き違いを減らせます。

「この書類を、こっちのトレーに置くんですね?」
「はい、そのトレーです」

日時や金額など、間違えると困る内容では、聞き取れたと思っていても、復唱したり文字で確認したりすることが役立ちます。

また、話し手から「この書類です」「青いトレーにお願いします」と具体的に伝え直すこともできます。

会話が伝わることは、聞き手だけの仕事ではありません。話し手が分かりやすく伝え、必要なところを互いに確かめることも大切です。

次の部では、この全体像をもとに、「分からなかった」がどこで起きているのかを分けて考えていきます。

この部で使った用語

本文中の点線の下線が付いた用語は、押すと説明を開けます。ここには、この部の本文・図・表に出てくる用語をまとめています。

音声(おんせい)
人が発声器官を使って作る、話しことばの音。
声帯(せいたい)
のどの中にある組織。息の流れによって周期的に振動し、声のもとを作る。
周波数(しゅうはすう)
振動が1秒間に繰り返される回数。単位はHz。
文脈(ぶんみゃく)
前後のことばや話題、状況など、意味を考える手がかり。
読話(どくわ)
話し手の口や顔の動きなど、見える情報を手がかりに発話を理解すること。

参考資料

この部の説明を確認するために参照した資料です。リンク先は外部サイトで、新しいタブで開きます。