ことばを聞き取り、理解する仕組み 第1部(全6部)
1.ことばが伝わる全体像
会話では、話し手が声を出し、聞き手がその声を聞いています。しかし、伝えたい内容が相手に伝わるまでには、音のやりとりだけでなく、いくつもの働きが関わっています。
まずは「伝えたいことが、ことばと音になり、相手の理解につながる」という全体のつながりを見てみましょう。
伝えたいことを、ことばと音にする
例えば、相手に書類をトレーへ置いてほしいとします。
話し手は、その内容を伝えるためにことばを選び、「そこに置いてください」という文にします。そして、息を使い、声帯や舌、唇などを動かして、音声(用語一覧の説明へ)音声(おんせい)人が発声器官を使って作る、話しことばの音。この部の用語一覧で見るとして表します。
声帯(用語一覧の説明へ)声帯(せいたい)のどの中にある組織。息の流れによって周期的に振動し、声のもとを作る。この部の用語一覧で見る(せいたい)は、のどにある、声を出すときに振動する部分です。声帯の振動や、舌・唇などの動きが組み合わさって、さまざまな音が作られます。詳しい仕組みは第5部で見ていきます。
届いた音を、ことばや意味と結びつける
聞き手には、話し手が作った音が届きます。
私たちは、その音の特徴や変化を手がかりに、「そこに」「置いて」「ください」といったことばを捉え、文としての意味を理解します。
ここには、大きく分けて次の働きが関わります。
| 働き | 会話でしていること |
|---|---|
| 聴覚の働き | 音の存在や、音の強さ・周波数・時間的な変化などを捉える |
| ことばを理解する働き | 音の並びを知っていることばと結びつけ、文の組み立てや意味を捉える |
| 注意や記憶の働き | 相手の話に注意を向け、聞いた内容を一時的に保ちながら、前後をつなげる |
周波数(用語一覧の説明へ)周波数(しゅうはすう)振動が1秒間に繰り返される回数。単位はHz。この部の用語一覧で見る(しゅうはすう)とは、音の振動が1秒間に何回繰り返されるかを表すものです。音声にはさまざまな周波数の成分が含まれており、その違いも聞き分けの手がかりになります。
これらは、説明のために分けた働きです。実際の会話では、一つが終わってから次が始まるだけでなく、互いに関わり合いながら理解が進みます。

この図では、話し手が内容を音声にするところと、聞き手が音声から内容を理解するところを見てください。さらに、聞き手から話し手へ戻る「聞き返す・確認する」というやりとりにも注目してみましょう。
文脈や見える情報で、意味を補う
会話では、お互いに分かっていることを省略したり、「これ」「そこ」といった表現を使ったりします。
例えば、「そこに置いてください」という文では、「何を置くか」は言われておらず、「そこ」がどの場所なのかも、ことばだけでは決まりません。
直前まで提出する書類の話をしていたなら、置くものはその書類だと考えられます。相手が机の上のトレーを指していれば、「そこ」がどの場所なのかを捉えやすくなります。
このような、前後の話のつながりや、その場の状況を、ここでは文脈(用語一覧の説明へ)文脈(ぶんみゃく)前後のことばや話題、状況など、意味を考える手がかり。この部の用語一覧で見る(ぶんみゃく)と呼びます。この例は、聞き取ったことばを文脈や身ぶりと結びつけて、具体的な意味を理解する場面です。

一方、最初から「この書類を、机の上の青いトレーに置いてください」と伝えれば、何をどこへ置くのかが、ことばでも明確になります。省略された内容を補うだけでなく、話し手が具体的に伝えることも、理解を支える方法です。
見える情報には、指さしのほかに、口の動きや表情などもあります。口の動きは話された音を捉える助けになり、表情や身ぶりは内容や意図を理解する助けにもなります。
口や顔の動きなど、見える情報を手がかりに話を理解することを、読話(用語一覧の説明へ)読話(どくわ)話し手の口や顔の動きなど、見える情報を手がかりに発話を理解すること。この部の用語一覧で見る(どくわ)といいます。ただし、口の形だけですべての音を区別できるわけではありません。
図の3つの手がかりは、順番に使う段階ではありません。会話の状況に応じて、利用できる情報を組み合わせながら理解していきます。
曖昧なところがあれば、確かめる
内容が明確に伝わっていれば、すべての発言を確認し直す必要はありません。
一方、聞き取れなかったところや、何を指しているのか曖昧なところがあるときは、その部分を具体的に確かめると、行き違いを減らせます。
「この書類を、こっちのトレーに置くんですね?」
「はい、そのトレーです」
日時や金額など、間違えると困る内容では、聞き取れたと思っていても、復唱したり文字で確認したりすることが役立ちます。
また、話し手から「この書類です」「青いトレーにお願いします」と具体的に伝え直すこともできます。
会話が伝わることは、聞き手だけの仕事ではありません。話し手が分かりやすく伝え、必要なところを互いに確かめることも大切です。
次の部では、この全体像をもとに、「分からなかった」がどこで起きているのかを分けて考えていきます。
この部で使った用語
本文中の点線の下線が付いた用語は、押すと説明を開けます。ここには、この部の本文・図・表に出てくる用語をまとめています。
- 音声(おんせい)
- 人が発声器官を使って作る、話しことばの音。
- 声帯(せいたい)
- のどの中にある組織。息の流れによって周期的に振動し、声のもとを作る。
- 周波数(しゅうはすう)
- 振動が1秒間に繰り返される回数。単位はHz。
- 文脈(ぶんみゃく)
- 前後のことばや話題、状況など、意味を考える手がかり。
- 読話(どくわ)
- 話し手の口や顔の動きなど、見える情報を手がかりに発話を理解すること。
参考資料
この部の説明を確認するために参照した資料です。リンク先は外部サイトで、新しいタブで開きます。
- UCSF Health「Communicating with People with Hearing Loss」(英語)(新しいタブで開きます)日時・場所などの大切な内容を復唱や文字で確認すること、言い換えて伝えること。
- ASHA(米国言語聴覚協会)「Tips for Communicating With Someone Who Has Hearing Loss」(英語)(新しいタブで開きます)同じことばを繰り返すより言い換えること、会話は双方の取り組みであること。
