「か」と「さ」、「おばさん」と「おばあさん」、「きて」と「きって」。

私たちは、こうした違いを手がかりに、話されたことばを区別しています。違うのは音の種類だけではありません。音の長さや、高さの変化も関わります。

この部では、まず日本語で何を区別しているのかを整理します。

母音や子音の違いを聞き分ける

「あ」と「い」は、異なる母音(用語一覧の説明へ)母音(ぼいん)口の通り道を強く閉じたり狭めたりせず、響きの違いで区別する音。「あ・い・う・え・お」など。この部の用語一覧で見る(ぼいん)です。日本語の母音は、基本的に「あ・い・う・え・お」の5つとして整理します。

一方、「か」と「さ」は、どちらにも「あ」にあたる母音が含まれていますが、その前の子音(用語一覧の説明へ)子音(しいん)空気の通り道を閉じたり狭めたりするなどして作る音。「か」の最初の音[k]など。この部の用語一覧で見る(しいん)が違います。

母音は、口の中で空気の通り道を大きく妨げずに作る音です。子音は、通り道を閉じたり狭めたりするなどして作る音です。具体的な作り方は第5部で見ていきます。

例えば「かく」と「さく」では、最初の子音の違いが、ことばの区別に関わっています。

このように、ある言語でことばを区別する働きを持つ、最小の音の単位を音素(用語一覧の説明へ)音素(おんそ)ある言語で、ことばの意味を区別する働きを持つ音の単位。この部の用語一覧で見る(おんそ)といいます。「か」は仮名では1文字ですが、音素の観点では、子音と母音を組み合わせたものとして考えます。

また、その言語でどの音を区別するか、音をどう組み合わせるかといった仕組みを扱うのが、音韻論(用語一覧の説明へ)音韻論(おんいんろん)ある言語でどの音を区別するか、音をどう組み合わせるかといった仕組みを扱う分野。この部の用語一覧で見る(おんいんろん)です。ここでいう音韻(用語一覧の説明へ)音韻(おんいん)実際に出された音を、言語の中での区別やまとまりとして捉えるときの考え方。この部の用語一覧で見る(おんいん)は、実際に出された音を、言語の中での区別やまとまりとして捉えるときの考え方です。

話す人が変われば、声の高さや響きも変わります。それでも同じことばとして聞けるのは、実際の音の違いすべてを、別のことばの違いとして扱っているわけではないからです。

音の長さも、ことばを区別する

「おばさん」と「おばあさん」では、「ば」の母音を長く伸ばすかどうかが違います。

このように、母音を長く伸ばす音を長音(用語一覧の説明へ)長音(ちょうおん)母音を長く発音する部分。「おばあさん」の長い「あ」など。この部の用語一覧で見る(ちょうおん)といいます。長く伸ばさない母音は、長音と対比して短母音(用語一覧の説明へ)短母音(たんぼいん)長く伸ばさない母音。長音と対比して使う呼び方。この部の用語一覧で見る(たんぼいん)と呼びます。

また、「きて」と「きって」では、次の「て」の音を出す前に、空気の流れを止めている時間が違います。「きて」にも短い閉鎖(用語一覧の説明へ)閉鎖(へいさ)調音器官で空気の通り道を閉じること。この部の用語一覧で見るがありますが、「きって」ではその閉鎖が長くなります。

小さい「っ」で表す音を促音(用語一覧の説明へ)促音(そくおん)小さい「っ」で表す部分。「きって」の「っ」は1モーラ。この部の用語一覧で見る(そくおん)といいます。ただし、促音がいつも無音になるわけではありません。「いっしょ」のように、摩擦する音が長く続く場合もあります。

音の長さの違いを帯で比べた模式図。①長音:「おばさん」(4拍)と「おばあさん」(5拍)では、「ば」の母音「あ」が続く時間が長い。②促音の一例:「きて」(2拍)と「きって」(3拍)では、「て」に向けて息の通り道を閉じる閉鎖の時間が長い。「きて」にも短い閉鎖がある。「っ」はいつも何もない休みではなく、「いっしょ」のように摩擦の音を長く続ける促音もある。帯は実測値ではない。

拡大して見る(図:音の長さによる違いの画像を開きます)

図:音の長さによる違い

この図では、どちらのことばが長いかだけでなく、どの部分が長くなっているかを見てください。

長さの違いは、日本語ではことばの区別に関わります。ただし、何秒以上なら長音や促音になる、と一律に決まっているわけではありません。話す速さや、周りの音との関係も手がかりになります。

音のまとまりには、異なる数え方がある

日本語の音のまとまりを考えるときに、知っておきたいのがモーラ(用語一覧の説明へ)モーラ別の呼び方・略号:拍日本語のリズムを数える単位。拍ともいう。「かん」は2モーラ。この部の用語一覧で見ると音節(用語一覧の説明へ)音節(おんせつ)母音などを中心にまとまった音の単位。「かん」は通常1音節として扱う。この部の用語一覧で見る(おんせつ)です。

モーラは、日本語のリズムを捉える基本的な単位で、拍(はく)とも呼ばれます。

例えば、「きて」は「き・て」の2モーラ、「きって」は「き・っ・て」の3モーラです。「っ」も1モーラとして数えます。

一方、音節は、母音を中心とした音のまとまりです。「きって」は「きっ・て」の2音節として数えます。

同じことばを拍(モーラ)と音節の2つの単位で区切った図。かん:か・ん で2拍、かん で1音節。きって:き・っ・て で3拍、きっ・て で2音節。きゃく:きゃ・く で2拍・2音節。おばあさん:お・ば・あ・さ・ん で5拍、お・ばあ・さん で3音節。文字数・拍数・音節数はいつも同じとは限らない。マスは数え方の模式図で、各拍の長さが厳密に同じという意味でも、息継ぎや無音を示すものでもない。

拡大して見る(図:モーラと音節の画像を開きます)

図:モーラと音節
モーラと音節の数え方の例
ことばモーラで数える音節で数える
かんか・ん:2モーラかん:1音節
きってき・っ・て:3モーラきっ・て:2音節
きゃくきゃ・く:2モーラきゃ・く:2音節
おばあさんお・ば・あ・さ・ん:5モーラお・ばあ・さん:3音節

「ん」で表す音を撥音(用語一覧の説明へ)撥音(はつおん)「ん」で表す音。前後の音などによって実際の発音は変わる。この部の用語一覧で見る(はつおん)といいます。撥音「ん」、促音「っ」、長音の伸ばす部分は、それぞれ1モーラを担い、まとめて特殊拍(用語一覧の説明へ)特殊拍(とくしゅはく)撥音「ん」、促音「っ」、長音の伸ばす部分のように、それだけで1拍を担う拍。この部の用語一覧で見る(とくしゅはく)と呼ばれます。

これに対して、「きゃ・しゅ・ちょ」など、小さい「ゃ・ゅ・ょ」を使って表す音を拗音(用語一覧の説明へ)拗音(ようおん)「きゃ・しゅ・ちょ」など、小さい「ゃ・ゅ・ょ」を添えて書く音。「きゃ」は1モーラ。この部の用語一覧で見る(ようおん)といいます。「きゃ」は仮名では2文字ですが、合わせて1モーラであり、特殊拍には含めません。

このように、文字の数、モーラの数、音節の数は、必ずしも一致しません。

また、モーラは、実際の発音がすべて同じ秒数になるという意味ではありません。表の区切りも、そこで息を切ったり、無音を入れたりする指示ではなく、音の構造を整理するためのものです。

高さの変化を聞き分ける

音の種類や長さだけでなく、声の高さの変化も手がかりになります。

ことばごとの高さのパターンを、アクセント(用語一覧の説明へ)アクセント単語などに備わる目立ち方の型。日本語では主に高さの配置として説明する。地域差がある。この部の用語一覧で見るといいます。ここでは、日本語の高さによるアクセントを扱います。

例えば東京方言では、「雨」は「あ」が高く「め」が低い、「飴」は「あ」が低く「め」が高い、という違いがあります。これは、強く大きく言う部分の違いではありません。

一方、文や発話全体にかかる高さの動きを、イントネーション(用語一覧の説明へ)イントネーション文や発話全体にわたる声の高さの変化。疑問や話し手の意図などに関わる。この部の用語一覧で見るといいます。

例えば「行く。」と伝える場合と、「行く?」と尋ねる場合では、文末の高さの動きが変わることがあります。

声の高さの違いを線で示した模式図。上段①アクセント:東京方言の例で、「雨」は「あ」が高く「め」が低い(高→低)、「飴」は「あ」が低く「め」が高い(低→高)。アクセントは地域によって異なり、線の上下は声の大きさではなく高さを表す。下段②イントネーション:「行く。」は落ち着いて言い切る一例、「行く?」は語尾を上げて尋ねる一例。疑問文でも必ず語尾を上げるとは限らない。実際の会話では2つが重なって現れる。線は録音から測った基本周波数の曲線ではない。

拡大して見る(図:アクセントとイントネーションの画像を開きます)

図:アクセントとイントネーション

図では、上段の「ことばごとの高さのパターン」と、下段の「発話全体や文末の高さの動き」を見比べてください。

アクセントには地域差があり、質問するときに必ず文末が上がるわけでもありません。また、実際の会話では、アクセントとイントネーションは重なって表れます。

このような、音の長さ、高さ、強さ、リズムなどに関わる特徴を、まとめて韻律(用語一覧の説明へ)韻律(いんりつ)音の長さ、高さ、強さ、リズムなど、音の並びにまたがる特徴。この部の用語一覧で見る(いんりつ)と呼びます。

私たちは、複数の違いを組み合わせて聞いている

ここまで、日本語の聞き分けに関わる違いを、分けて見てきました。

実際の会話では、これらが別々に届くわけではありません。連続する音の中から、複数の手がかりを組み合わせてことばを捉えています。

だからこそ、伝え直すときも、単に声を大きくするだけでなく、ことばの区別に関わる特徴を保って、自然にはっきり話すことが大切になります。

では、こうした違いは、実際の音のどこに表れているのでしょうか。

次の部では、録音した音を図で見ながら、聞き分けの手がかりと、それを捉える聴覚の働きを考えていきます。

この部で使った用語

本文中の点線の下線が付いた用語は、押すと説明を開けます。ここには、この部の本文・図・表に出てくる用語をまとめています。

母音(ぼいん)
口の通り道を強く閉じたり狭めたりせず、響きの違いで区別する音。「あ・い・う・え・お」など。
子音(しいん)
空気の通り道を閉じたり狭めたりするなどして作る音。「か」の最初の音[k]など。
音素(おんそ)
ある言語で、ことばの意味を区別する働きを持つ音の単位。
音韻論(おんいんろん)
ある言語でどの音を区別するか、音をどう組み合わせるかといった仕組みを扱う分野。
音韻(おんいん)
実際に出された音を、言語の中での区別やまとまりとして捉えるときの考え方。
長音(ちょうおん)
母音を長く発音する部分。「おばあさん」の長い「あ」など。
短母音(たんぼいん)
長く伸ばさない母音。長音と対比して使う呼び方。
閉鎖(へいさ)
調音器官で空気の通り道を閉じること。
開放(かいほう)
調音で閉じていた通り道を開くこと。
促音(そくおん)
小さい「っ」で表す部分。「きって」の「っ」は1モーラ。
モーラ
日本語のリズムを数える単位。拍ともいう。「かん」は2モーラ。別の呼び方・略号:拍
音節(おんせつ)
母音などを中心にまとまった音の単位。「かん」は通常1音節として扱う。
撥音(はつおん)
「ん」で表す音。前後の音などによって実際の発音は変わる。
特殊拍(とくしゅはく)
撥音「ん」、促音「っ」、長音の伸ばす部分のように、それだけで1拍を担う拍。
拗音(ようおん)
「きゃ・しゅ・ちょ」など、小さい「ゃ・ゅ・ょ」を添えて書く音。「きゃ」は1モーラ。
アクセント
単語などに備わる目立ち方の型。日本語では主に高さの配置として説明する。地域差がある。
イントネーション
文や発話全体にわたる声の高さの変化。疑問や話し手の意図などに関わる。
基本周波数(きほんしゅうはすう)
周期的な音の基本的な繰り返しの速さ。F0と書き、声の高さに関わる。別の呼び方・略号:F0(エフゼロ)
韻律(いんりつ)
音の長さ、高さ、強さ、リズムなど、音の並びにまたがる特徴。

参考資料

この部の説明を確認するために参照した資料です。リンク先は外部サイトで、新しいタブで開きます。