ことばを聞き取り、理解する仕組み 第3部(全6部)
3.日本語では何を聞き分けるのか
「か」と「さ」、「おばさん」と「おばあさん」、「きて」と「きって」。
私たちは、こうした違いを手がかりに、話されたことばを区別しています。違うのは音の種類だけではありません。音の長さや、高さの変化も関わります。
この部では、まず日本語で何を区別しているのかを整理します。
母音や子音の違いを聞き分ける
「あ」と「い」は、異なる母音(用語一覧の説明へ)母音(ぼいん)口の通り道を強く閉じたり狭めたりせず、響きの違いで区別する音。「あ・い・う・え・お」など。この部の用語一覧で見る(ぼいん)です。日本語の母音は、基本的に「あ・い・う・え・お」の5つとして整理します。
一方、「か」と「さ」は、どちらにも「あ」にあたる母音が含まれていますが、その前の子音(用語一覧の説明へ)子音(しいん)空気の通り道を閉じたり狭めたりするなどして作る音。「か」の最初の音[k]など。この部の用語一覧で見る(しいん)が違います。
母音は、口の中で空気の通り道を大きく妨げずに作る音です。子音は、通り道を閉じたり狭めたりするなどして作る音です。具体的な作り方は第5部で見ていきます。
例えば「かく」と「さく」では、最初の子音の違いが、ことばの区別に関わっています。
このように、ある言語でことばを区別する働きを持つ、最小の音の単位を音素(用語一覧の説明へ)音素(おんそ)ある言語で、ことばの意味を区別する働きを持つ音の単位。この部の用語一覧で見る(おんそ)といいます。「か」は仮名では1文字ですが、音素の観点では、子音と母音を組み合わせたものとして考えます。
また、その言語でどの音を区別するか、音をどう組み合わせるかといった仕組みを扱うのが、音韻論(用語一覧の説明へ)音韻論(おんいんろん)ある言語でどの音を区別するか、音をどう組み合わせるかといった仕組みを扱う分野。この部の用語一覧で見る(おんいんろん)です。ここでいう音韻(用語一覧の説明へ)音韻(おんいん)実際に出された音を、言語の中での区別やまとまりとして捉えるときの考え方。この部の用語一覧で見る(おんいん)は、実際に出された音を、言語の中での区別やまとまりとして捉えるときの考え方です。
話す人が変われば、声の高さや響きも変わります。それでも同じことばとして聞けるのは、実際の音の違いすべてを、別のことばの違いとして扱っているわけではないからです。
音の長さも、ことばを区別する
「おばさん」と「おばあさん」では、「ば」の母音を長く伸ばすかどうかが違います。
このように、母音を長く伸ばす音を長音(用語一覧の説明へ)長音(ちょうおん)母音を長く発音する部分。「おばあさん」の長い「あ」など。この部の用語一覧で見る(ちょうおん)といいます。長く伸ばさない母音は、長音と対比して短母音(用語一覧の説明へ)短母音(たんぼいん)長く伸ばさない母音。長音と対比して使う呼び方。この部の用語一覧で見る(たんぼいん)と呼びます。
また、「きて」と「きって」では、次の「て」の音を出す前に、空気の流れを止めている時間が違います。「きて」にも短い閉鎖(用語一覧の説明へ)閉鎖(へいさ)調音器官で空気の通り道を閉じること。この部の用語一覧で見るがありますが、「きって」ではその閉鎖が長くなります。
小さい「っ」で表す音を促音(用語一覧の説明へ)促音(そくおん)小さい「っ」で表す部分。「きって」の「っ」は1モーラ。この部の用語一覧で見る(そくおん)といいます。ただし、促音がいつも無音になるわけではありません。「いっしょ」のように、摩擦する音が長く続く場合もあります。

この図では、どちらのことばが長いかだけでなく、どの部分が長くなっているかを見てください。
長さの違いは、日本語ではことばの区別に関わります。ただし、何秒以上なら長音や促音になる、と一律に決まっているわけではありません。話す速さや、周りの音との関係も手がかりになります。
音のまとまりには、異なる数え方がある
日本語の音のまとまりを考えるときに、知っておきたいのがモーラ(用語一覧の説明へ)モーラ別の呼び方・略号:拍日本語のリズムを数える単位。拍ともいう。「かん」は2モーラ。この部の用語一覧で見ると音節(用語一覧の説明へ)音節(おんせつ)母音などを中心にまとまった音の単位。「かん」は通常1音節として扱う。この部の用語一覧で見る(おんせつ)です。
モーラは、日本語のリズムを捉える基本的な単位で、拍(はく)とも呼ばれます。
例えば、「きて」は「き・て」の2モーラ、「きって」は「き・っ・て」の3モーラです。「っ」も1モーラとして数えます。
一方、音節は、母音を中心とした音のまとまりです。「きって」は「きっ・て」の2音節として数えます。

| ことば | モーラで数える | 音節で数える |
|---|---|---|
| かん | か・ん:2モーラ | かん:1音節 |
| きって | き・っ・て:3モーラ | きっ・て:2音節 |
| きゃく | きゃ・く:2モーラ | きゃ・く:2音節 |
| おばあさん | お・ば・あ・さ・ん:5モーラ | お・ばあ・さん:3音節 |
「ん」で表す音を撥音(用語一覧の説明へ)撥音(はつおん)「ん」で表す音。前後の音などによって実際の発音は変わる。この部の用語一覧で見る(はつおん)といいます。撥音「ん」、促音「っ」、長音の伸ばす部分は、それぞれ1モーラを担い、まとめて特殊拍(用語一覧の説明へ)特殊拍(とくしゅはく)撥音「ん」、促音「っ」、長音の伸ばす部分のように、それだけで1拍を担う拍。この部の用語一覧で見る(とくしゅはく)と呼ばれます。
これに対して、「きゃ・しゅ・ちょ」など、小さい「ゃ・ゅ・ょ」を使って表す音を拗音(用語一覧の説明へ)拗音(ようおん)「きゃ・しゅ・ちょ」など、小さい「ゃ・ゅ・ょ」を添えて書く音。「きゃ」は1モーラ。この部の用語一覧で見る(ようおん)といいます。「きゃ」は仮名では2文字ですが、合わせて1モーラであり、特殊拍には含めません。
このように、文字の数、モーラの数、音節の数は、必ずしも一致しません。
また、モーラは、実際の発音がすべて同じ秒数になるという意味ではありません。表の区切りも、そこで息を切ったり、無音を入れたりする指示ではなく、音の構造を整理するためのものです。
高さの変化を聞き分ける
音の種類や長さだけでなく、声の高さの変化も手がかりになります。
ことばごとの高さのパターンを、アクセント(用語一覧の説明へ)アクセント単語などに備わる目立ち方の型。日本語では主に高さの配置として説明する。地域差がある。この部の用語一覧で見るといいます。ここでは、日本語の高さによるアクセントを扱います。
例えば東京方言では、「雨」は「あ」が高く「め」が低い、「飴」は「あ」が低く「め」が高い、という違いがあります。これは、強く大きく言う部分の違いではありません。
一方、文や発話全体にかかる高さの動きを、イントネーション(用語一覧の説明へ)イントネーション文や発話全体にわたる声の高さの変化。疑問や話し手の意図などに関わる。この部の用語一覧で見るといいます。
例えば「行く。」と伝える場合と、「行く?」と尋ねる場合では、文末の高さの動きが変わることがあります。

拡大して見る(図:アクセントとイントネーションの画像を開きます)
図では、上段の「ことばごとの高さのパターン」と、下段の「発話全体や文末の高さの動き」を見比べてください。
アクセントには地域差があり、質問するときに必ず文末が上がるわけでもありません。また、実際の会話では、アクセントとイントネーションは重なって表れます。
このような、音の長さ、高さ、強さ、リズムなどに関わる特徴を、まとめて韻律(用語一覧の説明へ)韻律(いんりつ)音の長さ、高さ、強さ、リズムなど、音の並びにまたがる特徴。この部の用語一覧で見る(いんりつ)と呼びます。
私たちは、複数の違いを組み合わせて聞いている
ここまで、日本語の聞き分けに関わる違いを、分けて見てきました。
- 母音や子音など、音の種類。
- 長音や促音などに関わる、音の長さ。
- アクセントやイントネーションなど、高さのパターン。
実際の会話では、これらが別々に届くわけではありません。連続する音の中から、複数の手がかりを組み合わせてことばを捉えています。
だからこそ、伝え直すときも、単に声を大きくするだけでなく、ことばの区別に関わる特徴を保って、自然にはっきり話すことが大切になります。
では、こうした違いは、実際の音のどこに表れているのでしょうか。
次の部では、録音した音を図で見ながら、聞き分けの手がかりと、それを捉える聴覚の働きを考えていきます。
この部で使った用語
本文中の点線の下線が付いた用語は、押すと説明を開けます。ここには、この部の本文・図・表に出てくる用語をまとめています。
- 母音(ぼいん)
- 口の通り道を強く閉じたり狭めたりせず、響きの違いで区別する音。「あ・い・う・え・お」など。
- 子音(しいん)
- 空気の通り道を閉じたり狭めたりするなどして作る音。「か」の最初の音[k]など。
- 音素(おんそ)
- ある言語で、ことばの意味を区別する働きを持つ音の単位。
- 音韻論(おんいんろん)
- ある言語でどの音を区別するか、音をどう組み合わせるかといった仕組みを扱う分野。
- 音韻(おんいん)
- 実際に出された音を、言語の中での区別やまとまりとして捉えるときの考え方。
- 長音(ちょうおん)
- 母音を長く発音する部分。「おばあさん」の長い「あ」など。
- 短母音(たんぼいん)
- 長く伸ばさない母音。長音と対比して使う呼び方。
- 閉鎖(へいさ)
- 調音器官で空気の通り道を閉じること。
- 開放(かいほう)
- 調音で閉じていた通り道を開くこと。
- 促音(そくおん)
- 小さい「っ」で表す部分。「きって」の「っ」は1モーラ。
- モーラ
- 日本語のリズムを数える単位。拍ともいう。「かん」は2モーラ。別の呼び方・略号:拍
- 音節(おんせつ)
- 母音などを中心にまとまった音の単位。「かん」は通常1音節として扱う。
- 撥音(はつおん)
- 「ん」で表す音。前後の音などによって実際の発音は変わる。
- 特殊拍(とくしゅはく)
- 撥音「ん」、促音「っ」、長音の伸ばす部分のように、それだけで1拍を担う拍。
- 拗音(ようおん)
- 「きゃ・しゅ・ちょ」など、小さい「ゃ・ゅ・ょ」を添えて書く音。「きゃ」は1モーラ。
- アクセント
- 単語などに備わる目立ち方の型。日本語では主に高さの配置として説明する。地域差がある。
- イントネーション
- 文や発話全体にわたる声の高さの変化。疑問や話し手の意図などに関わる。
- 基本周波数(きほんしゅうはすう)
- 周期的な音の基本的な繰り返しの速さ。F0と書き、声の高さに関わる。別の呼び方・略号:F0(エフゼロ)
- 韻律(いんりつ)
- 音の長さ、高さ、強さ、リズムなど、音の並びにまたがる特徴。
参考資料
この部の説明を確認するために参照した資料です。リンク先は外部サイトで、新しいタブで開きます。
- 東京外国語大学 言語モジュール 日本語 発音 実践編「1.10.1 拍感覚基礎」(新しいタブで開きます)拍(モーラ)がリズムの基本的な単位であること、促音・撥音・長音などの特殊拍も1拍分の長さを持つこと。
- 東京外国語大学 言語モジュール 日本語 発音 実践編「2.2.1 拍感覚(長音)」(新しいタブで開きます)長音は短母音の音質を変えずに伸ばす音で、伸ばす部分が1拍分の長さとして知覚されること。
- 東京外国語大学 言語モジュール 日本語 発音 実践編「1.8.1 アクセント基礎」(新しいタブで開きます)共通語のアクセントが音の高低で区別されること(同ページの例は「橋」と「箸」)。
- 東京外国語大学 言語モジュール 日本語 発音 実践編「3.2.1 アクセントとイントネーション」(新しいタブで開きます)疑問の文末の上昇が、語のアクセントの型を保ったまま重なって表れること。
