第4部では、母音や子音の違いが、音の周波数成分や時間的な変化に表れることを見ました。

その違いを作っているのが、息の流れ、声帯の振動、舌や唇などの動きです。

この部では、音を作る仕組みをたどりながら、口の動きを見ることが会話の理解に役立つ理由と、見える情報だけでは分かりにくいことを考えます。

息と声帯、声の通り道

普段の日本語の発話では、主に肺から吐き出す息を使います。この吐く息を、呼気(用語一覧の説明へ)呼気(こき)肺から吐き出す息。この部の用語一覧で見る(こき)といいます。

息がのどを通るとき、声帯(用語一覧の説明へ)声帯(せいたい)のどの中にある組織。息の流れによって周期的に振動し、声のもとを作る。この部の用語一覧で見るが振動すると、周期的な音のもとが作られます。その音が、のどや口の中を通る間に、通り道の形に応じて響きが変わります。

第4部で説明した声道(用語一覧の説明へ)声道(せいどう)のどや口の中など、声の響きを変える通り道。この部の用語一覧で見る(せいどう)は、この声の通り道です。舌や唇、あごなどを動かすと声道の形が変わり、強められる周波数領域も変わります。

一方、すべての音声が声帯の振動をもとに作られるわけではありません。「さ」の子音のように、狭い通り道を息が通ることで生じる音もあります。

「あー」と声を出す場面の模式図(頭・首は横から、肺は正面から)。1 息を送り出す:肺と呼吸の筋肉により、肺から出る息が気管を通って喉へ向かう。2 声のもとを作る:母音などでは息によって声帯が振動し、声のもとになる音を作る。振動の速さが基本周波数F0に関わる。3 響きや音の特徴を変える:声帯から口・鼻へつながる声道の形が、舌や唇などの動きで変わる。声道の形や長さがフォルマントF1・F2・F3に関わる。軟口蓋は鼻への通り道を開閉し、この母音の例では閉じている。すべての音で声帯が振動するわけではなく、例えば「サ」の最初の[s]は声帯を振動させずに作る。

拡大して見る(図:息・声帯・声道の画像を開きます)

図:息・声帯・声道

図では、息がどこを通り、どこで音が生じ、どこで響きが変わるのかを見てください。

舌や唇などを使って、話しことばの音を形作ることを、調音(用語一覧の説明へ)調音(ちょうおん)舌や唇などを動かして話しことばの音を形作ること。この部の用語一覧で見る(ちょうおん)といいます。

子音は、3つの観点で整理できる

子音の作り方は、主に次の3つから考えると整理しやすくなります。

子音を整理する3つの観点
観点見ること
調音位置(ちょうおんいち)どこで空気の通り道を閉じたり、狭めたりするか
調音方法(ちょうおんほうほう)空気の流れを、どのように変えるか
有声・無声(ゆうせい・むせい)音を作るときに、声帯の周期的な振動を伴うか

この3つを組み合わせることで、子音どうしの共通点と違いが見えてきます。

どこで作るか:調音位置

「ぱ」「た」「か」の子音は、いずれも空気の通り道をいったん閉じて(用語一覧の説明へ)閉鎖(へいさ)調音器官で空気の通り道を閉じること。この部の用語一覧で見るから開放(用語一覧の説明へ)開放(かいほう)調音で閉じていた通り道を開くこと。この部の用語一覧で見るして作ります。ただし、閉じる場所が違います。

パ・タ・カの子音を作る場所を比べた3つの口の断面模式図。「パ」の子音[p]:上下の唇を合わせて口の出口を閉じる(両唇音、りょうしんおん)。「タ」の子音[t]:舌先付近を上の前歯のすぐ後ろの歯茎に当てて閉じる(歯茎音、しけいおん)。「カ」の子音[k]:舌の奥を口の天井の奥の軟口蓋に当てて閉じる(軟口蓋音、なんこうがいおん)。閉じる場所を橙色の部分と点線の丸で示す。3つとも、いったん息を止めてから放す破裂音で、図は閉じた瞬間を表す。

拡大して見る(図:調音位置の違いの画像を開きます)

図:調音位置の違い
「ぱ・た・か」の子音を作る場所
例主に使う場所分類名
「ぱ」の子音上下の唇両唇音(りょうしんおん)
「た」の子音舌先付近と、上の前歯の後ろにある歯茎付近歯茎音(しけいおん)
「か」の子音舌の後方と、口の天井の奥にある柔らかい部分軟口蓋音(なんこうがいおん)

口蓋(用語一覧の説明へ)口蓋(こうがい)口の中の天井にあたる部分。この部の用語一覧で見る(こうがい)とは、口の中の天井にあたる部分です。前方の硬い部分を硬口蓋(用語一覧の説明へ)硬口蓋(こうこうがい)口蓋の前方にある硬い部分。この部の用語一覧で見る(こうこうがい)、奥の柔らかい部分を軟口蓋(用語一覧の説明へ)軟口蓋(なんこうがい)口蓋の奥にある柔らかい部分。鼻への通路の開閉にも関わる。この部の用語一覧で見る(なんこうがい)と呼びます。

図では、音を作るために接触している場所に注目してください。同じ「閉じて開く」動きでも、場所が変われば、出てくる音の特徴も変わります。

どう作るか:調音方法

次に、場所だけでなく、空気の流れをどう変えるかを見てみましょう。

子音を作る方法を比べた4コマの断面模式図。①破裂音:「タ」の子音[t]。A 口と鼻への出口を閉じ、息の流れをいったん止める。B 舌先を離すと、たまった圧が解放され、短い破裂の音が生じる。②摩擦音:[s]。舌先付近に狭い隙間を作り、そこを通る息の乱れで音を作る。③鼻音:[n]。舌先付近で口側を閉じたまま、軟口蓋を下げて鼻への通路を開く。青緑の線は息の経路、橙色は口側の閉鎖や狭め。[t]・[s]は無声、[n]は通常有声。

拡大して見る(図:調音方法の違いの画像を開きます)

図:調音方法の違い

鼻音では、軟口蓋が下がって鼻への通路が開きます。「な」では舌が口の中の通り道を閉じますが、鼻へ空気が流れ、声帯の振動も続きます。

第4部の「あた・あさ・あな」の録音で見た、音が弱くなる区間、摩擦する成分、周期的な振動の続き方は、こうした作り方の違いと関わっています。

このほかにも、閉鎖のあとに摩擦へ移る破擦音(用語一覧の説明へ)破擦音(はさつおん)閉鎖のあとに摩擦へ移る動きを、まとまった子音として作る音。この部の用語一覧で見る(はさつおん)、舌先などが短く接触するはじき音(用語一覧の説明へ)はじき音(はじきおん)舌先などを短く接触させて作る音。日本語のラ行の代表的な子音。この部の用語一覧で見る、強い摩擦が生じない程度に通り道を狭める接近音(用語一覧の説明へ)接近音(せっきんおん)強い摩擦が起きない程度に通り道を狭めて作る音。この部の用語一覧で見る(せっきんおん)などがあります。これらは、後の子音一覧表で位置づけを確認します。

声帯が振動するか:有声と無声

声帯の周期的な振動を伴う音を有声音(用語一覧の説明へ)有声音(ゆうせいおん)別の呼び方・略号:有声声帯の周期的な振動を伴って作る音。この部の用語一覧で見る(ゆうせいおん)、伴わない音を無声音(用語一覧の説明へ)無声音(むせいおん)別の呼び方・略号:無声声帯の周期的な振動を伴わずに作る音。無音という意味ではない。この部の用語一覧で見る(むせいおん)といいます。

ここでいう「無声」は、音がないという意味ではありません。声帯が振動していなくても、息の流れによる摩擦などで音が生じます。

口側の作り方が似ている[s]と[z]で、声帯の振動を比べた模式図。口側はどちらも歯茎摩擦音で、舌先付近に狭い隙間を作り、息を通して摩擦の音を作る。無声音[s]:声帯を離して息を通し、時間が進んでも周期的な開閉はない。声帯が振動しなくても音は出る。有声音[z]:声帯がすばやく開く・閉じる・開くを繰り返し、摩擦の音に声帯振動を伴う。開く瞬間も含めて一連の振動が有声。1秒間の開閉の繰り返し回数が基本周波数F0で、1秒間に100回なら100 Hz。有声と無声を交互に切り替えているのではない。日本語の「ザ」の子音は破擦音[dz]になる場合もある。

拡大して見る(図:有声と無声の画像を開きます)

図:有声と無声

図では、「さ」の子音にあたる [s] と、有声の摩擦音 [z] を比べています。[z] では、摩擦に加えて声帯の周期的な振動が伴います。

なお、日本語のザ行の子音は、発話の位置や話し方によって、摩擦音だけでなく破擦音として発音される場合もあります。図では、有声・無声の違いを見やすくするため、摩擦音どうしを比べています。

声帯の振動では、声帯の間のすき間が周期的に変化します。これは「有声と無声を交互に繰り返している」という意味ではなく、有声音を作っている振動の1周期の中の変化です。その繰り返しの速さが、基本周波数(用語一覧の説明へ)基本周波数(きほんしゅうはすう)別の呼び方・略号:F0(エフゼロ)周期的な音の基本的な繰り返しの速さ。F0と書き、声の高さに関わる。この部の用語一覧で見るに関わります。

日本語の子音全体の中で位置づける

ここまでの図は、作り方の違いを理解するための代表例です。日本語の子音をすべて描いているわけではありません。

一覧表の読み方

子音は「どこで作るか」「どう作るか」「声帯が振動するか」の組み合わせで整理できます。この前の3つの図で見た音を、ほかの音と比べてみましょう。

この表は共通語の主な発音を学ぶための整理です。すべての方言・個人差・発音の変化を並べた一覧ではありません。また、言葉の区別を担う「音素」の一覧ではなく、実際の音の特徴に注目した表です。

角括弧 [ ] の中は音声記号(用語一覧の説明へ)音声記号(おんせいきごう)別の呼び方・略号:発音記号実際の発音を書き表すための記号。この教材では国際音声記号(IPA)を[ ]で囲んで示す。一般には「発音記号」とも呼ばれる。この部の用語一覧で見る(おんせいきごう)です。「パ」などは、その子音が現れる発音の例であり、母音まで含めて一つの子音とする意味ではありません。記号のアルファベット名を覚えるより、「パの最初の音」のように例と結びつけて読んでください。

★はこの前の3つの図で取り上げた音です。「—」は、この表に代表例を載せていない欄で、世界の言語にその音が存在しないという意味ではありません。

表に出てくる場所(調音位置)の名前
名前・読み方おおよその場所
両唇(りょうしん)上下の唇
歯茎(しけい)上の前歯のすぐ後ろ付近
歯茎硬口蓋(しけいこうこうがい)歯茎の後方から硬口蓋の前方にかけて。舌の前の部分を近づける
硬口蓋(こうこうがい)口の天井の硬い部分
軟口蓋(なんこうがい)口の天井の奥にある柔らかい部分
声門(せいもん)左右の声帯の間

位置の名前に「音」を付けると、両唇音・歯茎音など、その場所で作る音の分類名になります。

日本語の主な子音の一覧表

同じ行の左右を比べると「場所・方法が同じで、声帯の振動が異なる音」がわかります。同じ場所の別の行を比べると、息の通し方の違いがわかります。

日本語の主な子音の一覧
場所方法無声:記号と例有声:記号と例
両唇破裂音★[p] パ・ピ・プ・ペ・ポの子音[b] バ・ビ・ブ・ベ・ボの子音
両唇摩擦音[ɸ] フの子音—
両唇鼻音—[m] マ・ミ・ム・メ・モの子音
歯茎破裂音★[t] タ・テ・トの子音[d] ダ・デ・ドの子音
歯茎摩擦音★[s] サ・ス・セ・ソの子音★[z] ザ・ズ・ゼ・ゾに現れる摩擦音
歯茎破擦音[ts] ツの子音[dz] ザ・ズ・ゼ・ゾに現れる破擦音
歯茎鼻音—★[n] ナ・ヌ・ネ・ノの子音
歯茎付近はじき音—[ɾ] ラ行に現れる代表的な子音
歯茎硬口蓋摩擦音[ɕ] シ・シャ・シュ・ショの子音[ʑ] ジ・ジャ・ジュ・ジョに現れる摩擦音
歯茎硬口蓋破擦音[tɕ] チ・チャ・チュ・チョの子音[dʑ] ジ・ジャ・ジュ・ジョに現れる破擦音
硬口蓋摩擦音[ç] ヒ・ヒャ・ヒュ・ヒョの子音—
硬口蓋付近鼻音—[ɲ] ニ・ニャ・ニュ・ニョに現れる音の代表表記 ※1
硬口蓋接近音—[j] ヤ・ユ・ヨの子音
軟口蓋破裂音★[k] カ行の子音[ɡ] ガ行に現れる破裂音
軟口蓋鼻音—[ŋ] ガ行の鼻濁音など ※2
声門摩擦音[h] ハ・ヘ・ホの子音—

※1 ニの子音は[nʲ]などとも表記され、詳細な調音位置の記述にも幅があります。ここではナの[n]と全く同じ舌の形ではないことを押さえます。

※2 鼻濁音(用語一覧の説明へ)鼻濁音(びだくおん)日本語のガ行の子音が、鼻音[ŋ]として発音される場合の呼び名。主に語頭以外に現れ、使うかどうかは地域・世代・話者などによって異なる。この部の用語一覧で見る(びだくおん)は、ガ行の音が鼻音として発音されるものです。地域・世代・話者などによる違いがあり、すべてのガ行が[ŋ]になるわけではありません。

表は入門的な代表分類です。特に[t d n]の歯音/歯茎音、ラ行の接触位置や方法などは文献・話者によって記述が異なります。母音「イ」や拗音の前では舌の形も変わるため、パ行・カ行などを一行にまとめたことは、すべての発音が厳密に同一の調音であることを意味しません。

ワの子音はどこに入る? 「ワ」の子音も有声の接近音です。舌の奥や唇が関わります。日本語の音素としては /w/ と書くことが多い一方、具体的な発音には [ɰ] などの表記が使われます。英語の [w] と同じ強い唇の丸めを前提にしないため、ここでは表から分けて説明しています。

一覧表では、「同じ場所で作る音」「同じ方法で作る音」「有声・無声が異なる音」を見比べてください。表の[ ]の中の音声記号は、仮名より細かく実際の音を表すための記号です。ここでは国際音声記号(用語一覧の説明へ)国際音声記号(こくさいおんせいきごう)別の呼び方・略号:IPA言語を越えて発音を記述するために国際音声学会が定めた記号体系。IPAと略す。音声記号の代表的な体系。この部の用語一覧で見る(IPA)を使っています。最初から暗記する必要はありません。

この表で確認してみる

  1. パ・タ・カは「場所」が違う:[p]・[t]・[k]は、いずれも無声の破裂音。両唇・歯茎・軟口蓋という場所が違います。図「調音位置の違い」に対応します。
  2. タ・サ・ナは「方法」に注目する:[t]・[s]・[n]は歯茎付近で作りますが、破裂音・摩擦音・鼻音という方法が違います。[n]は通常有声なので、3音の差が方法だけというわけではありません。図「調音方法の違い」に対応します。
  3. [s]と[z]は「声帯の振動」が違う:どちらも歯茎摩擦音ですが、[s]は無声、[z]は有声。図「有声と無声」に対応します。

仮名の「行」と、音の作り方は同じではない

また、五十音表で同じ行にあっても、子音の作り方がすべて同じとは限りません。例えば「は・ひ・ふ」では、息の通り道を狭める場所が異なります。

[ts]や[tɕ]は文字が2つ並んでいますが、この表では一続きの破擦音を示します。より明示的に[t͡s]、[t͡ɕ]などと上の連結線を付ける表記もあります。

文字の並びと、実際の音の分類を分けて考えることが大切です。

撥音(用語一覧の説明へ)撥音(はつおん)「ん」で表す音。前後の音などによって実際の発音は変わる。この部の用語一覧で見る(はつおん)「ン」は前後の音によって発音が変わるため、一つの固定した調音位置に置きません。促音(用語一覧の説明へ)促音(そくおん)小さい「っ」で表す部分。「きって」の「っ」は1モーラ。この部の用語一覧で見る(そくおん)「ッ」も、後続する子音などに応じた閉鎖・摩擦の持続と関係します。第3部の拍・特殊拍(用語一覧の説明へ)特殊拍(とくしゅはく)撥音「ん」、促音「っ」、長音の伸ばす部分のように、それだけで1拍を担う拍。この部の用語一覧で見るの説明につなげて読んでください。

拗音(用語一覧の説明へ)拗音(ようおん)「きゃ・しゅ・ちょ」など、小さい「ゃ・ゅ・ょ」を添えて書く音。「きゃ」は1モーラ。この部の用語一覧で見る(ようおん)や口蓋化(用語一覧の説明へ)口蓋化(こうがいか)舌が硬口蓋へ近づく動きが加わるなどして、子音の性質が変わること。この部の用語一覧で見る(こうがいか:舌の前の部分を硬口蓋へ近づける動きが加わること)、借用語の発音などは、この表では扱っていません。この整理表だけを「日本語の全発音の完全な一覧」とは位置付けません。

母音は、舌や唇の形で響きが変わる

母音では、子音のように通り道を完全に閉じたり、強い摩擦を起こすほど狭めたりせず、声道の形を変えて響きを作ります。

母音の違いを整理する主な観点は、舌の高低、舌の前後、唇の形です。

母音を舌の位置で整理した模式図。①口の中の方向:前は唇・歯の側、後ろは喉の側。高いは舌の盛り上がりが天井に近いこと、低いは舌の位置が低く口内が広がること。ここでいう「高い」は声の高さではない。②5つの母音の大まかな位置:横軸は舌の盛り上がる位置(前〜後ろ)、縦軸は舌の高さ(高い=狭母音、低い=広母音)。イは前寄りの高い位置、エは前寄りの中間、ウは後ろ寄り〜中央寄りの高い位置、オは後ろ寄りの中間、アは低い位置。位置・間隔は説明用で、舌の実測図や声の周波数のグラフではない。舌の形が変わると声道の形が変わり、響き方が変わる。

拡大して見る(図:母音と舌の位置の画像を開きます)

図:母音と舌の位置

例えば「い」では、舌が比較的前方の高い位置にあります。「あ」では、舌が比較的低い位置になります。「え」は、「い」より舌が低い位置にある母音として整理できます。

舌が高い位置にある母音を高母音(用語一覧の説明へ)高母音(こうぼいん)別の呼び方・略号:狭母音舌が比較的高い位置にある母音。狭母音(せまぼいん)ともいう。声の高さが高いという意味ではない。この部の用語一覧で見る(こうぼいん)、低い位置にある母音を低母音(用語一覧の説明へ)低母音(ていぼいん)別の呼び方・略号:広母音舌が比較的低い位置にある母音。広母音(ひろぼいん)ともいう。声の高さが低いという意味ではない。この部の用語一覧で見る(ていぼいん)といいます。舌が高いと口の中の通り道が狭くなるため、高母音は狭母音(せまぼいん)、低母音は広母音(ひろぼいん)とも呼ばれます。図ではこちらの呼び方を使っています。また、舌の前方・後方の位置に着目して、前舌母音(用語一覧の説明へ)前舌母音(ぜんぜつぼいん)舌の位置が比較的前方にある母音。この部の用語一覧で見る(ぜんぜつぼいん)・後舌母音(用語一覧の説明へ)後舌母音(こうぜつぼいん)舌の位置が比較的後方にある母音。この部の用語一覧で見る(こうぜつぼいん)などと呼びます。

ここでの「高い・低い」は、舌の位置のことです。声の高さを表しているわけではありません。

図は、母音どうしのおおまかな位置関係を示すもので、口の中をそのまま写した断面図や、録音から測定したフォルマントの図ではありません。

イ・オ・日本語のウの唇を正面から見た模式図。円唇は唇を丸めること、非円唇は唇を丸めないこと。イ:非円唇の例で、唇を丸めず横に広がる形。ア・エも非円唇だが開き方はイと同じではない。オ:円唇の例で、唇を丸めて開口部を作る。日本語のウ:非円唇として扱うことが多く、強く丸めて突き出すとは限らず、上下の唇を近づけた狭い隙間になることがある。「ウ=唇を丸く突き出す」とひとつの形に決めつけない。母音は舌の位置と唇の形を合わせて考える。唇の見た目だけで母音を一意に判定できることを示す図ではない。

拡大して見る(図:母音と唇の形の画像を開きます)

図:母音と唇の形

唇を丸める母音を円唇母音(用語一覧の説明へ)円唇母音(えんしんぼいん)唇を丸めて発音する母音。この部の用語一覧で見る(えんしんぼいん)、丸めない母音を非円唇母音(用語一覧の説明へ)非円唇母音(ひえんしんぼいん)唇を丸めずに発音する母音。この部の用語一覧で見る(ひえんしんぼいん)といいます。

「お」では唇を丸める動きが見られます。一方、日本語の「う」は、英語などの「ウ」に近い音と同じように、唇を強く丸めて突き出すとは限りません。唇を狭めたり圧縮したりする特徴があり、話者による違いもあります。

舌や唇の形が変わると、声道の共鳴(用語一覧の説明へ)共鳴(きょうめい)物や空間の形・大きさなどに応じて、特定の周波数付近の振動が強められる現象。この部の用語一覧で見るも変わります。それが、第4部で見たフォルマント(用語一覧の説明へ)フォルマント声道の共鳴によって生じる特徴的な周波数領域。母音の違いを捉える手がかりになる。この部の用語一覧で見るの違いにつながります。

会話では、動きが連続している

ここまでの図では、違いが分かりやすいように、一つひとつの音を分けて示しました。しかし、実際には、舌や唇が音ごとに止まりながら動くわけではありません。

前の音の動きが残ったり、次の音を作る準備が始まったりして、動きは重なり合います。こうした現象を共調音(用語一覧の説明へ)共調音(きょうちょうおん)別の呼び方・略号:調音結合隣り合う音の調音動作が重なり、互いに影響すること。調音結合ともいう。この部の用語一覧で見る(きょうちょうおん)といいます。

そのため、同じ音でも、前後の音によって実際の発音が変化します。第4部で見た、母音から子音へ移る途中の変化にも、調音の動きが表れています。

口の動きから分かること、分かりにくいこと

唇の開閉や丸め方、あごの動きなどは、外から見える手がかりです。一方、舌の奥の動きや声帯の振動は、通常、外から直接見ることができません。

例えば「ぱ・ば・ま」は、いずれも唇を閉じる動きを含みます。しかし、声帯の振動や鼻への空気の流れは異なります。唇が閉じた一場面だけで、どの音かを確定することはできません。

読話(用語一覧の説明へ)読話(どくわ)話し手の口や顔の動きなど、見える情報を手がかりに発話を理解すること。この部の用語一覧で見るでは、静止した口の形だけでなく、連続する動きや、利用できる音、文脈などを組み合わせて理解します。それでも、見分けにくい音や分からない部分は残ります。

だからこそ、相手が見える位置で自然に話すことは助けになり得ますが、「口を見れば分かるはず」とは考えません。見える情報の利用しやすさには個人差があり、文字などを使う方が分かりやすい場合もあります。

音がどう作られるかを知ると、見える情報が役立つ理由と、それだけでは補いきれない理由の両方が分かります。

最後の部では、ここまで学んだ仕組みを、日常の会話で使える支援へつなげていきます。

この部で使った用語

本文中の点線の下線が付いた用語は、押すと説明を開けます。ここには、この部の本文・図・表に出てくる用語をまとめています。

呼気(こき)
肺から吐き出す息。
声帯(せいたい)
のどの中にある組織。息の流れによって周期的に振動し、声のもとを作る。
声道(せいどう)
のどや口の中など、声の響きを変える通り道。
共鳴(きょうめい)
物や空間の形・大きさなどに応じて、特定の周波数付近の振動が強められる現象。
フォルマント
声道の共鳴によって生じる特徴的な周波数領域。母音の違いを捉える手がかりになる。
基本周波数(きほんしゅうはすう)
周期的な音の基本的な繰り返しの速さ。F0と書き、声の高さに関わる。別の呼び方・略号:F0(エフゼロ)
調音(ちょうおん)
舌や唇などを動かして話しことばの音を形作ること。
調音位置(ちょうおんいち)
子音を作るとき、通り道を閉じたり狭めたりする場所。
調音方法(ちょうおんほうほう)
空気の流れをどのように変えて音を作るかという分類。
有声音(ゆうせいおん)
声帯の周期的な振動を伴って作る音。別の呼び方・略号:有声
無声音(むせいおん)
声帯の周期的な振動を伴わずに作る音。無音という意味ではない。別の呼び方・略号:無声
両唇音(りょうしんおん)
上下の唇を使って作る子音。「ぱ・ば・ま」の子音など。
歯茎音(しけいおん)
舌先付近と上の前歯の後ろの歯茎付近を使って作る子音。
軟口蓋音(なんこうがいおん)
舌の後方と軟口蓋付近を使って作る子音。「か」の子音など。
口蓋(こうがい)
口の中の天井にあたる部分。
硬口蓋(こうこうがい)
口蓋の前方にある硬い部分。
軟口蓋(なんこうがい)
口蓋の奥にある柔らかい部分。鼻への通路の開閉にも関わる。
歯茎硬口蓋音(しけいこうこうがいおん)
歯茎の後方から硬口蓋付近を使って作る子音。「し」の子音など。別の呼び方・略号:歯茎・硬口蓋音
声門(せいもん)
左右の声帯の間にあるすき間。
破裂音(はれつおん)
空気の通り道をいったん閉じ、その後に開放して作る音。
摩擦音(まさつおん)
通り道を狭め、そのすき間を通る息の流れで作る音。
鼻音(びおん)
口の通り道を閉じる一方、鼻へ空気を通して作る音。「ま・な」の子音など。
破擦音(はさつおん)
閉鎖のあとに摩擦へ移る動きを、まとまった子音として作る音。
はじき音(はじきおん)
舌先などを短く接触させて作る音。日本語のラ行の代表的な子音。
接近音(せっきんおん)
強い摩擦が起きない程度に通り道を狭めて作る音。
閉鎖(へいさ)
調音器官で空気の通り道を閉じること。
開放(かいほう)
調音で閉じていた通り道を開くこと。
音声記号(おんせいきごう)
実際の発音を書き表すための記号。この教材では国際音声記号(IPA)を[ ]で囲んで示す。一般には「発音記号」とも呼ばれる。別の呼び方・略号:発音記号
国際音声記号(こくさいおんせいきごう)
言語を越えて発音を記述するために国際音声学会が定めた記号体系。IPAと略す。音声記号の代表的な体系。別の呼び方・略号:IPA
口蓋化(こうがいか)
舌が硬口蓋へ近づく動きが加わるなどして、子音の性質が変わること。
鼻濁音(びだくおん)
日本語のガ行の子音が、鼻音[ŋ]として発音される場合の呼び名。主に語頭以外に現れ、使うかどうかは地域・世代・話者などによって異なる。
撥音(はつおん)
「ん」で表す音。前後の音などによって実際の発音は変わる。
促音(そくおん)
小さい「っ」で表す部分。「きって」の「っ」は1モーラ。
特殊拍(とくしゅはく)
撥音「ん」、促音「っ」、長音の伸ばす部分のように、それだけで1拍を担う拍。
拗音(ようおん)
「きゃ・しゅ・ちょ」など、小さい「ゃ・ゅ・ょ」を添えて書く音。「きゃ」は1モーラ。
高母音(こうぼいん)
舌が比較的高い位置にある母音。狭母音(せまぼいん)ともいう。声の高さが高いという意味ではない。別の呼び方・略号:狭母音
低母音(ていぼいん)
舌が比較的低い位置にある母音。広母音(ひろぼいん)ともいう。声の高さが低いという意味ではない。別の呼び方・略号:広母音
前舌母音(ぜんぜつぼいん)
舌の位置が比較的前方にある母音。
後舌母音(こうぜつぼいん)
舌の位置が比較的後方にある母音。
円唇母音(えんしんぼいん)
唇を丸めて発音する母音。
非円唇母音(ひえんしんぼいん)
唇を丸めずに発音する母音。
共調音(きょうちょうおん)
隣り合う音の調音動作が重なり、互いに影響すること。調音結合ともいう。別の呼び方・略号:調音結合
読話(どくわ)
話し手の口や顔の動きなど、見える情報を手がかりに発話を理解すること。

参考資料

この部の説明を確認するために参照した資料です。リンク先は外部サイトで、新しいタブで開きます。