ことばを聞き取り、理解する仕組み 第6部(全6部)
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ここまで、ことばを理解する全体像から、日本語で聞き分ける違い、音の特徴、発声や口の動きへと掘り下げてきました。
会話では、音の存在に気づくだけでなく、その特徴を捉え、ことばや意味と結びつけています。文脈や見える情報も、その理解を支えています。
では、聞き取りにくいときには、何をどう変えればよいのでしょうか。
ここまで見てきた仕組みを、会話の中で使える工夫につなげてみましょう。
音を利用しやすくする
ことばの聞き分けに必要な音が届いていなければ、その手がかりを使うことは難しくなります。
補聴器を本人の聞こえに合わせて調整することや、話す距離、周囲の音に配慮することは、必要な音を利用しやすくする方法です。
ただし、第4部で見たように、音が聞こえることと、その細部を区別できることは同じではありません。補聴器を使っていても、聞き取りにくさが残る場合があります。
「補聴器をつけているから伝わるはず」と考えるのではなく、実際の会話で何が分かりにくいのかを確かめ、ほかの伝え方も組み合わせます。
自然な話し方で、音の違いを伝える
日本語では、母音(用語一覧の説明へ)母音(ぼいん)口の通り道を強く閉じたり狭めたりせず、響きの違いで区別する音。「あ・い・う・え・お」など。この部の用語一覧で見るや子音(用語一覧の説明へ)子音(しいん)空気の通り道を閉じたり狭めたりするなどして作る音。「か」の最初の音[k]など。この部の用語一覧で見るの種類だけでなく、長さや高さの変化も、ことばを捉える手がかりになります。
伝え直すときは、声の大きさを上げることだけに集中せず、自然にはっきり話すことを基本にします。
特に、「ゆっくり話す」を、一音ずつ長く引き伸ばすことと考えないようにします。例えば、「あ・し・た・の……」と細かく区切るよりも、
明日の予約ですが、〔間〕午後2時に来てください
のように、意味のまとまりで区切り、相手が理解する時間を取る方法があります。
これは、聴覚の機能そのものを回復させるのではなく、音の流れや内容を追いやすくするための工夫です。速さや間の取り方は、本人の反応を見ながら調整します。
見える手がかりも使えるようにする
第5部では、唇やあごの動きは見えても、舌の奥や声帯の動きは見えにくいことを確認しました。
相手が見える位置で話し、口元を手などで隠さないことは、見える手がかりを使いやすくする工夫です。口を大げさに動かす必要はありません。
ただし、口の形だけで、すべての音を区別することはできません。また、相手の顔を見ることが、誰にとっても同じように役立つわけではありません。
「口を見てください」と一方的に求めるのではなく、本人が使いやすい情報や方法を確かめます。
話の見通しを共有する
音の一部が曖昧でも、何の話をしているのかが分かっていると、ことばや意味の候補を考えやすくなります。
例えば、いきなり日時を伝える前に、
来週の予約の話ですが……
と話題を示すことで、これから何について聞くのかを共有できます。
また、第1部の「そこに置いてください」のように、省略や指示語が多い表現では、聞き取れていても内容が曖昧になることがあります。
この書類を、机の上の青いトレーに置いてください
と具体的に伝えれば、相手が状況から補わなければならない情報を減らせます。
文脈(用語一覧の説明へ)文脈(ぶんみゃく)前後のことばや話題、状況など、意味を考える手がかり。この部の用語一覧で見るを増やすことに加えて、推測しなくても分かる表現にすることも大切です。
同じことばの繰り返しから、伝え方の変更へ
一度聞き逃しただけなら、同じことばをもう一度伝えることで分かる場合があります。
一方、同じ表現を繰り返しても伝わりにくいときは、ことばや伝える方法を変えてみます。
例えば、「次回の来店日」という表現が分かりにくければ、「次にお店に来る日」と言い換えられます。
音の並びが変わることで聞き取る手がかりが変わり、なじみのある表現にすることで意味も捉えやすくなります。ただし、言い換えるときには、もとの内容を変えないようにします。
名前や数字など、別のことばに置き換えにくい情報は、文字で示す方法が適しています。
文字や図など、別の方法で伝える
音声だけでは確かめにくいときは、文字、字幕、写真、図、指さしなどを使う方法があります。
例えば「午後2時です」と話しながら「14:00」と書けば、時刻を文字でも確かめられます。場所を説明するなら、地図や写真の方が伝わりやすい場合もあります。
こうした方法は、聴覚の働きを元に戻すものではありません。同じ内容に、別の経路からたどり着けるようにする方法です。
文字を使う場合も、本人が読みやすい大きさや表現を選びます。自動字幕や音声認識には誤りが生じるため、名前・数字・否定表現など、重要な部分は内容を確かめます。
手話を主な言語としている人との会話
相手が手話(用語一覧の説明へ)手話(しゅわ)手や体の動き、表情などの視覚的な表現を使う言語。音声の口の動きを読む読話とは異なる。この部の用語一覧で見るを主な言語としていて、話し手も手話でやりとりできる場合は、手話を使って伝えられます。
話し手が手話を使えない場合は、筆談やスマートフォンでの文字入力、写真・図・実物を示す方法などから、本人が利用しやすい方法を確かめます。簡単な用件なら、対象を指さしながら短い文で示す方法もあります。
ただし、文字による日本語の読みやすさにも個人差があります。「書けば必ず伝わる」とは考えず、具体的で分かりやすい表現を使い、内容が伝わったかを確認します。
複雑な説明や重要な意思確認では、本人の希望に応じて手話通訳を利用するなど、十分にやりとりできる方法を整えます。
必要なところを、一緒に確認する
内容が明確に伝わっていれば、すべての発言を確認し直す必要はありません。
一方、曖昧なところや、日時・金額など間違えると困る内容では、確認することが役立ちます。
「2時ですね」
「はい、午後2時です」
このように具体的な内容をやりとりすると、「分かりましたか?」という問いだけでは見えにくい行き違いに気づけます。
文字で示した時刻を一緒に見るなど、声に出して言い返す以外の方法でも確認できます。
確認は、聞き手を試すためのものではありません。「私の伝え方で合っていたか、ここを一緒に確認しましょう」という姿勢で行います。
本人に合った方法を、組み合わせる

この図では、これまで学んだ音やことばの特徴が、どのような工夫につながるかを見てください。
ただし、一つの困り方に対して、いつも一つの正解があるわけではありません。同じ人でも、場面や疲れ具合、話題によって、利用しやすい方法は変わります。
「もう一度、同じように言ってほしい」
「少し区切って話してほしい」
「文字で見せてほしい」
本人の希望を聞きながら、伝わりやすい方法を選びます。聞き手が方法を説明しにくいときは、話し手から選択肢を示して、一緒に試すこともできます。
このページで見てきた仕組みは、その方法を考えるための手がかりです。難しい用語をすべて覚えてからでなければ、支援できないわけではありません。
利用しやすい手がかりを増やし、必要なところを一緒に確かめる。
ことばの理解を支えるのは、聞き手の力だけではなく、話し手の伝え方と、互いに調整できるやりとりでもあります。
この部で使った用語
本文中の点線の下線が付いた用語は、押すと説明を開けます。ここには、この部の本文・図・表に出てくる用語をまとめています。
- 母音(ぼいん)
- 口の通り道を強く閉じたり狭めたりせず、響きの違いで区別する音。「あ・い・う・え・お」など。
- 子音(しいん)
- 空気の通り道を閉じたり狭めたりするなどして作る音。「か」の最初の音[k]など。
- 文脈(ぶんみゃく)
- 前後のことばや話題、状況など、意味を考える手がかり。
- 手話(しゅわ)
- 手や体の動き、表情などの視覚的な表現を使う言語。音声の口の動きを読む読話とは異なる。
参考資料
この部の説明を確認するために参照した資料です。リンク先は外部サイトで、新しいタブで開きます。
- NIDCD(米国国立聴覚・伝達障害研究所)「Hearing Aids」(英語)(新しいタブで開きます)補聴器は音を大きくして聞こえやすくするが、正常な聞こえを取り戻すものではなく、調整や慣れが必要な場合があること。
- UCSF Health「Communicating with People with Hearing Loss」(英語)(新しいタブで開きます)顔が見える位置で話す、大げさな口の動きを避ける、言い換える、大切な内容を文字や復唱で確認すること。
- ASHA(米国言語聴覚協会)「Tips for Communicating With Someone Who Has Hearing Loss」(英語)(新しいタブで開きます)大声ではなく普通の声ではっきり話す、周囲の音を減らす、言い換える、字幕を使うこと。
