ことばを聞き取り、理解する仕組み 第2部(全6部)
2.聞き取りにくさを分けて考える
会話が分からなかったとき、私たちは「聞こえなかった」「聞き取れなかった」と表現します。しかし、その中身はいつも同じとは限りません。
声がしたことに気づかなかったのか。音は聞こえたけれど、ことばを区別できなかったのか。それとも、ことばは分かっても、内容を理解できなかったのか。
困ったところを分けて考えると、どのように伝え直せばよいかを考えやすくなります。

拡大して見る(図:聞き取りにくさを分けて考えるの画像を開きます)
この図では、「分からなかった」を4つの観点から整理しています。自分や相手の経験に近い例があるか、見てみましょう。
① 声の存在に気づく
「話しかけられたことに気づかなかった」
会話の始まりでは、まず声がしたことや、自分に話しかけられていることに気づく必要があります。
ただし、音そのものを捉えられなかった場合と、音は届いていても別のことに注意が向いていた場合は、同じではありません。また、声には気づいていても、自分への呼びかけだと思わなかった可能性もあります。
そのため、返事がなかったということだけで、「声が聞こえていない」とは決められません。
会話を始める前に名前を呼ぶ、見える位置から合図するなど、相手が気づいてから話し始めることが助けになります。本人が気づきやすい方法を選ぶことが大切です。
② 音の違いを聞き分ける
「『きて』と言ったのか、『きって』と言ったのか、はっきりしなかった」
声が聞こえていても、ことばを区別するための音の手がかりを十分に捉えられないことがあります。
例えば、「きて」と「きって」では、途中の音の長さが違います。ほかにも、母音(用語一覧の説明へ)母音(ぼいん)口の通り道を強く閉じたり狭めたりせず、響きの違いで区別する音。「あ・い・う・え・お」など。この部の用語一覧で見るや子音(用語一覧の説明へ)子音(しいん)空気の通り道を閉じたり狭めたりするなどして作る音。「か」の最初の音[k]など。この部の用語一覧で見るの違いなど、ことばの区別に関わる特徴があります。
こうした違いを聞き分けるには、音が聞こえることに加えて、その音の特徴や変化を捉えることが必要です。どのような手がかりを使っているのかは、第3部と第4部で詳しく見ていきます。
伝え直すときには、自然にはっきり話すことに加えて、「こちらへ来てください」のように文にする、別の表現に言い換える、文字で示す、といった方法も考えられます。
③ ことばとして捉える
「音の並びは追えたけれど、知らない用語だった」
聞こえた音を、その人が知っていることばや意味と結びつけられない場合もあります。
例えば、初めて聞く専門用語では、音をまねして言い返せても、何を表すことばなのかは分からないことがあります。また、知らない名称では、どこからどこまでが一つのことばなのかを捉えにくいこともあります。
この場合は、同じ用語を大きな声で繰り返すだけでは、意味の理解につながりません。なじみのあることばに言い換える、意味を説明する、具体例や文字を添える、といった工夫が役立ちます。
なお、「知らない用語だった」ことと、音の聞き取りにくさが重なっている場合もあります。
④ 文の意味・意図を理解する
「ことばは分かったけれど、何を指しているのか分からなかった」
一つひとつのことばが分かっても、文全体の意味や、相手が伝えたい内容が明確にならないことがあります。
第1部の「そこに置いてください」も、その一例です。何をどこへ置くのかが共有されていなければ、ことばを聞き取れただけでは、行動を決められません。
ほかにも、急に話題が変わった、説明の前提を知らなかった、一度に多くの情報が伝えられた、といった場合には、話のつながりを捉えにくくなります。
話題を先に示す、省略された内容を具体的に伝える、内容を小分けにして説明するなど、理解しやすい形に整えることが助けになります。
4つの困り方は、重なり合う
ここまでの4つは、困り方を整理するための観点です。一人の聞き手をどれか一つに分類したり、難聴の種類や原因を判定したりするものではありません。
例えば、初めて聞く用語は、音の違いを確かめるための予想も立てにくくなります。話の途中を聞き逃せば、その後のことばは聞き取れても、何の話か分からなくなることがあります。
「分からなかった」という結果だけで、どの働きに問題があるのかを決めることはできません。
分からなかったところに合わせて、伝え直す
聞き手が困ったところを伝えられる場合は、そこを具体的に知らせると、話し手も伝え直し方を選びやすくなります。
- 「最後のことばを、もう一度お願いします」
- 「その用語の意味を教えてください」
- 「何を、どこへ置けばよいですか?」
聞き手自身にも、どこで分からなくなったのか判断しにくいことがあります。そのときは、無理に説明してもらう必要はありません。話し手が短く言い換えたり、文字で示したりしながら、一緒に確かめていきます。
大切なのは、聞き手を評価することではなく、今回のやりとりでは、どんな伝え方が助けになるかを見つけることです。
次の部では、このうち「音の違いを聞き分ける」ことに注目し、日本語では何を手がかりにことばを区別しているのかを見ていきます。
この部で使った用語
本文中の点線の下線が付いた用語は、押すと説明を開けます。ここには、この部の本文・図・表に出てくる用語をまとめています。
- 母音(ぼいん)
- 口の通り道を強く閉じたり狭めたりせず、響きの違いで区別する音。「あ・い・う・え・お」など。
- 子音(しいん)
- 空気の通り道を閉じたり狭めたりするなどして作る音。「か」の最初の音[k]など。
参考資料
この部の説明を確認するために参照した資料です。リンク先は外部サイトで、新しいタブで開きます。
- Moore, B. C. J. (1996). Perceptual consequences of cochlear hearing loss and their implications for the design of hearing aids. Ear and Hearing, 17(2), 133–161.(英語・抄録)(新しいタブで開きます)音が聞こえる範囲に入ること(可聴性)と、聞こえる音を細かく区別することは別の側面であること。
- ASHA(米国言語聴覚協会)「Tips for Communicating With Someone Who Has Hearing Loss」(英語)(新しいタブで開きます)話し始める前に注意を向けてもらうこと、同じことばを繰り返すより言い換えること。
